メンズカウンセリング協会通信 から

連載 メンズカウンセリング 基本のきほん

第1回 なぜ子どもに会えなくなるのか(その1)― DV防止法の疑問点 ―

 男性の悩み相談の中でも多く寄せられるもので、「いきなり妻と子どもが出
て行って途方にくれていたら、DV常習者と言うレッテルを貼られてしまった。
とにかく子どもと会えないのが辛い」というものがあります。この問題はマス
コミで取り上げられることはほとんどないようですが、ネット上では「子ども
に二度と会えないのは納得できない」「DV冤罪だ」ということで、多く取り
上げられ、実際に当事者の団体も立ち上がっています。
参考までに、以下はその代表的な団体ですが。

http://oyakonet.org/   (親子ネット)
http://kyodosinken.com/  (共同親権ネットワーク)

 話を戻すと、上記問題の原因の一つがこの法律、正式には「配偶者からの暴
力の防止及び被害者の保護に関する法律」にあることは間違いないようなので、
その問題点を確認したいと思います。当事者の方には、とっくにご存知の事ば
かりでしょうが、それ以外の方にとっても看過できない問題ですので、しばし
お付き合いください。

 まず、保護命令についてですが、これは説明が長くなるので、例えば、下記
のサイトをご覧いただきたいと思います。

http://www.gender.go.jp/e-vaw/law/12.html

 ここで問題となるのは、保護命令の発令に当たって、裁判のように確かな証
拠提示や審理が必要とされない、ということです。このため、現実的には、妻
が夫からDVを受けたと申し立てれば簡単に認められてしまう傾向が強いよう
です。また、夫との離婚を相談に来た妻をあおって夫の「暴力行為」を針小棒
大に、それどころかデッチ上げすら描くよう指南をする弁護士がいる、という
嘆かわしい話をよく耳にします。
 取り上げているサイトの一例を下記に挙げておきます。

http://rikonnomanual.seesaa.net/article/153248766.html

 では、加害者とされた側に弁明の機会はあるのか、というと、あることはあ
るものの、以下の条文を見ると
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第十四条 保護命令は、口頭弁論又は相手方が立ち会うことができる審尋の期
日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ること
により保護命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、こ
の限りでない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 つまり、加害者とされた人には弁明の機会を与えなくても構わない、という
ことで、実際に機会もない場合が多いようです。

それから、次の条文ですが、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第十六条 保護命令の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすること
ができる。
2 前項の即時抗告は、保護命令の効力に影響を及ぼさない。
3 即時抗告があった場合において、保護命令の取消しの原因となることが明
らかな事情があることにつき疎明があったときに限り、抗告裁判所は、申立て
により、即時抗告についての裁判が効力を生ずるまでの間、保護命令の効力の
停止を命ずることができる。・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 この第1項の「即時」というのは、民事の場合「1週間以内」という意味だ
そうです(だったら、そう書いたほうが分かりやすいのに!)。つまり、不服
を申し立てるのなら、1週間以内にやらないと無効だ、ということ。これは、
社会生活上の常識から考えてかなり酷ではないでしょうか。3項の「疎明」と
いうのは、弁明という意味だそうです(分かりにくい!)が、虚偽もしくは誇
張された内容に対して「明らかな事情」と言った反証を、裁判官に好印象を持
たれるように訴えるのも、現実的にはかなり困難なようです。

 このように、DV防止法においては、被害者から「加害者だ」と申し立てら
れた人を圧倒的に不利な状況に置くものといえましょう。

 ・・・それから、知らない人もいるかもしれないので、最後に付け加えますと、
第一条の条文ですが、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 第一条 この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者からの身体に
対する暴力・・・又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(以下この項
において「身体に対する暴力等」と総称する。)をいい・・・、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 身体的な暴力だけがDVということにはならない、ということは知っておき
たいものです。

 さて、次回は「子どもに会えなくなる」根拠となる、他の条文について見て
みたいと思います。

 

第2回 なぜ子どもに会えなくなるのか― DV防止法の疑問点 ―(その2)

1.「言動の暴力」の認定について
前回の最後に、「心身に有害な影響を及ぼす言動」もDVになる、というDV防止
法第一条の主旨についてふれました。これも理屈としては当然のことで、恒常
的な言葉の暴力も明確な暴力であります。とはいえ、これは殴打の場合以上に、
暴力と認定できるのか、判断が難しい場合も多かろうことが想像できます。

 実際の男性相談の現場では「普段、妻に声を荒げることのない僕が、たまた
ま頭にきて一度怒鳴っただけで、DV認定をされた。」「気持が荒れてたので物
に当たってしまった。それが『恐怖を与えた、DVをした』と認定されてしまった」
等々、納得がいかない思いを訴えられることがよくあります。せっかくの設け
られた条項だけれども、ここでも、申し立てれば簡単に認められてしまう傾向が
強いようで、その弊害も少なくないようです。

2.加害者の更正のために何ができる?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
  第二十五条 国及び地方公共団体は、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保
護に資するため、加害者の更生のための指導の方法、被害者の心身の健康を回復
させるための方法等に関する調査研究の推進並びに被害者の保護に係る人材の養
成及び資質の向上に努めるものとする。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 へえ、こんなことが謳われているのだ、と驚きました。やはり、面倒くさくで
も法律の条文には当たってみるものです。ですけど、実際に国や自治体で、この
方面の、調査研究の推進などなどがどこまで進められているのでしょうか。例え
ば、加害者更正のためのどのようなプログラムが実際にどこで行われているのか、
私のリサーチ不足もあるかもしれないですが、メンズサポートルームも含めた若
干の民間団体しか聞いた事がありません。行政での取り組みはほとんど進んでい
ないのではないでしょうか。

3.子どもとの接見禁止
2004年のDV法改正において、接近禁止命令が子どもにまで拡大されました(第十
条第三項 条文はかなり長いので省略します。)その理由をある法女性学・家族
法専攻の大学教授はこう述べます。

「子の福祉の観点からすれば、一方の親の意思で他方の親と会わせることをやめ
させることは、子の福祉に反するという理屈が成り立ちます。(しかし)この点
においては、DVが子どもにどういう影響を与えているのかということをきちん
と見なければなりません。妻にDVをふるっている人は、子どもにも暴力をふる
っている可能性が高く、DVを目撃するだけで影響を与えると言われています。
ですから、子どもは三つの立場で被害者だというふうに考えられます。・・・被害者
を加害者から保護するという点から、子どものことを通して加害者にまた、会わ
なければならなくなる、会うと暴力をふるわれる危険がある、それを防止するた
めにという理屈を考えて、ようやく保護命令に「子ども」が入ったわけです。」
(引用ここまで、原文はこちら http://www.pref.kyoto.jp/josei/a40-2.html )

 はたしてそうでしょうか?一般的にDV加害者は子どもにも暴力を振るっている
可能性が高いにしても、やはり、個別のケースを見なければ断定できないはずで
す。実際に子どもにも過酷な暴力を振るってきたのか、それとも、そこまで過酷
ではなく、その子は例えば・・・、自分の親が、怒るとすぐさま体罰(=暴力)を振
るうようなところは嫌いだけれども、基本的には好きで、会いたくないとまでは
思わないかもしれません。そんな場合に親と子の接近禁止ということになれば、
明らかに子の福祉に反するのではないでしょうか。

 また、被害者が「子どもを通じて加害者と会わなければならなくなる危険」を避
けるために、子どもを一方の実の親(=加害者)に会わせないようにする、とい
うのは・・・、まあ、実際に暴力から逃れてきている人にとっては無理からぬ気持も
あるしょう。けれども、この理屈は、親同士の問題に子どもを巻き込むのを正当
化しかねないものです。

 実際には、保護命令が出された理由も納得できない上に、子どもに会うこともで
きなくなって怒りと悲嘆にくれ、それが嵩じて絶望感からウツ状態になってしまう、
という痛ましい人もいます。安心して子どもを、(加害者とされた)もう一方の親と
会えるような仕組み(面会交流)や制度、法的な裏づけが早急に必要なのです。

<おわりに>
 さて、連載の次回のテーマですが・・・未定です(苦笑)。私も手探りでテーマを
探しながら書いておりますので、後から、前回以前に書いたことを補足したり、訂
正することもあるかもしれませんが、何卒ご了解ください。
 また、メンズカウンセリングといっても、対象は男性限定ではないので、女性の
ことなども取り上げていきたいと思っています。
 

(川)